中小企業経営者には、本業とは別に不動産投資を行うと、より安定した収益源の確保につながります。そのため、実際に不動産投資を検討されている中小企業経営者も少なくありません。そこで今回は、中小企業を取り巻く問題や中小企業の経営者が不動産投資を行う理由、中小企業経営者が収益不動産に投資するメリット・デメリット、注意点などについて解説します。
中小企業を取り巻く問題
新型コロナウイルス感染症の影響
近年は新型コロナウイルス感染拡大により、売上が減少し、企業の倒産が増加しました。
依然としてコロナ感染症流行前の水準まで回復していないケースも少なくありません。
ウクライナ情勢
また、ウクライナ情勢などの影響により、原油・原材料価格の高騰がみられます。
2023年6月26日時点の全国平均で1リットル当たり171円と値上がりが続いています。
政府の補助金の補助率は、段階的に引き下げられるため、依然として厳しい状況です。
原油・原材料価格の高騰は、製造コストや輸送コストの上昇を受け、製品の価格に転嫁されています。加えて円安の影響が重なり、安定した収益源を確保することが困難となっているのです。
中小企業の課題はそれだけではありません。
経営者の高齢化
経営者の高齢化も進み、東京商工リサーチ 202年「全国社長の年齢」調査によると、2009年以降、過去最高の63.02歳(前年62.77歳)となっています。
60代以上の社長の構成比が初めて60%を超える結果になりました。
また、70代以上が33.3%(前年32.6%)で、2019年から4年連続で30%台が続いています。
一方、社長が70代以上の企業の赤字率は25.8%、連続赤字率は13.3%となり、社長の年齢が高いほど、業績が悪化する傾向にあります。
後継者不在による「後継者難」倒産は422件(前年比10.7%増)です。
引用元:東京商工リサーチ「社長の平均年齢 過去最高の63.02歳 ~ 2022年「全国社長の年齢」調査 ~」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1197338_1527.html
人材不足
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、多くの人が離職した「宿泊業、飲食サービス業」、「生活関連サービス業、娯楽業」などは、現在も雇用者数が戻っていない状況であり、人材不足が続いています。
このような低迷した中小企業の経営基盤を安定化させるには、
中小企業経営者と不動産投資は、親和性が高いと言われています。経営の安定化のため、大企業だけでなく、中小企業経営者こそが行うべきという声もあるのです。
本業で厳しい状況が続いていても、不動産投資でうまくいけば毎月安定した家賃収入が入るためです。
不動産投資では会社経営と異なり、従業員を雇うことなく不動産が毎月稼いでくれます。
中小企業の経営者が不動産投資を行う理由
ここでは、中小企業の経営者が不動産投資を行う理由について解説します。
会社の安定した経営につながる
売上はあるが、利益が残らないといった中小企業もめずらしくありません。
仕入れと売掛金のバランスが悪くなると、資金繰りが苦しくなります。たとえば、1,000万円の売上があり、そのうち500万円が売掛金に含まれている場合、決算書上では売上が1,000万円と計上されますが、実際のお金の動きは500万円しか手元に残らないことになるのです。
また、業種によっては在庫過多に陥っているケースもあります。このように経営が安定していない場合、不動産投資で収益源を確保するのも一つの方法です。
節税対策になる
不動産投資は節税対策になると言われています。不動産投資の家賃収入は「総合課税」の対象となっています。
総合課税とは、他の所得と合算した課税所得に所得税の税率をかけて所得税額を算出する方法です。つまり、分離課税の対象となる所得を除いた所得の合算にかかる税金です。
総合課税の対象は以下のとおりです。
事業所得や不動産所得、給与所得、利子所得、配当所得、譲渡所得、一時所得、雑所得などがあります。
総合課税は確定申告が必要です。
不動産投資で得た所得は、他の所得と合算して算出できます。
また、不動産投資では以下のようなさまざまな諸経費がかかります。
- 土地や建物に関するローンの金利
- 火災や地震などに備えての保険料
- 管理会社への管理委託料、建物の管理費
- 不動産仲介会社に支払う仲介手数料
- 不動産仲介会社への広告宣伝費
- 原状回復のリフォームなどの建物修繕費
- 建物部分の減価償却費
- 税金(固定資産税や登録免許税、都市計画税、不動産取得税、売買契約書などに必要な印紙税、その他、自動車税、重量税、利子税、法人事業税)
- 司法書士や税理士への報酬
- インターネットのプロバイダーなどの通信費
- 公共交通機関の運賃などの交通費、ホテルの旅費
- セミナーやコンサルなどの情報収集費
- 不動産会社や管理会社との交際費
このように経費を有効活用し、帳簿上の所得を減少させることで納める税金額を減少させることができるのです。
利益ではなく赤字が出たときは、損益通算ができます。
損益通算は、所得金額の計算上生じた利益と損失を相殺することです。
減価償却には、法定耐用年数が定められています。
木造:22年
鉄骨造(厚さ3mm超4mm以下):27年
鉄骨造(厚さ4mm超):34年
鉄筋コンクリート造:47年
不動産投資は、金融機関から融資を受けて物件を購入するケースがほとんどですが、経費として計上できるのは金利部分のみとなっています。
そのため、元本については、経費として計上できません。
その他、不動産投資で節税ができる税金は、所得税・相続税・住民税があります。
経営の柔軟性
不動産投資が上手くいくと、会社経営にも良い影響を与えられます。
本業で売上が落ちているときであっても、不動産投資の資金で新規事業を始められます。
一方、売れ筋の商品がある場合は、今まで以上に仕入れを増やすことも可能です。
資金力に余裕ができると、経営の健全化やリスク管理にもつながるでしょう。
社宅として活用できる
空室がある場合、従業員向けの社宅として活用することにより、空室リスクを下げられます。
社宅は、福利厚生として経費に計上できるため、節税効果が期待できます。
中小企業経営者が収益不動産に投資するメリット
ここでは、中小企業経営者が収益不動産に投資するメリットについて解説します。
安定した収益を得られる
不動産投資は、空室を作らなければ、安定した家賃収入を得ることが可能です。
売上があっても利益が出ない中小企業や業績が順調でもいつまで続くかわからず、
不安な企業などは、不動産投資が適しているでしょう。
ただし、収益性や利回りの高い物件を選ぶことが大切です。
また、不動産会社選びも重要なポイントになります。
専門的な知識と経験があり、口コミでも評判のよい会社を選ぶ必要があります。
売り出し価格も適正でなければなりません。不動産会社と相談しながら適正価格を決めます。
法人税を圧縮できる
減価償却を計上することで法人税の圧縮が可能となります。たとえば、建物比率が高い鉄筋コンクリートマンションなどを購入することによって減価償却費を多く計上し、利益を圧縮することが可能です。
保険代わりになる
不動産オーナーに万が一(死亡・高度障害)のことがあった場合、団体信用生命保険に加入しておくことで、不動産投資ローンの残債を家族が支払う必要がなくなります。
そのため、収益物件をそのまま配偶者などに相続することも可能なのです。
また、収益物件を売却することもできます。
少額から始められる
不動産投資は自己資金のみで始める方は少ないです。
金融機関の不動産投資ローンを利用して、不動産投資を始める方がほとんどです。
ローン完済後は、安定した収入を得られます。
中小企業経営者が収益不動産に投資するデメリット
ここでは、中小企業経営者が収益不動産に投資するデメリットについて解説します。
空室率
不動産投資でもっとも気になるのが空室率です。空室が多くなる原因としては、立地の選定ミスや物件の管理が行き届いていない、住人同士のトラブルが頻繁に起きている、住宅設備の経年劣化で住み心地が悪いなどがあります。
立地
物件選びの中で立地は非常に重要です。
駅から遠く、周りに商業施設がなかったりすると空室はいつまで経っても埋まりません。
駅に近い物件や周辺に大型商業施設、病院、市区町村役場、コンビニ、
スーパーマーケット、郵便局など、生活に必要な環境がそろっていることが条件です。
管理
管理が行き届いていない物件とは、ポスト周辺が散らかっていて汚れている、共用部分の汚れや階段の劣化、周辺にゴミが落ちている、外壁の塗膜が剥がれているなど、清潔感のない物件が該当します。
トラブル
トラブルについては、騒音やペットの問題、家賃滞納、ゴミ出しのマナー、いたずらなどです。
住人からの苦情に対応していなければ、退去する人も増えるでしょう。
営業力
また、入居者募集の営業力がない場合も空室が続く傾向があります。不動産会社によっては積極的な営業を行っていないケースもあるため、注意が必要です。
また、広告の掲載方法や記載されている内容によっては、空室が埋まらないケースもめずらしくありません。写真のクオリティや募集図面などをしっかり確認しましょう。
賃料設定
競合物件より家賃が高い場合は、空室率が高くなるでしょう。住み心地が悪く、家賃の高い物件に住みたいと思う方はいないでしょう。
修繕費がかかる
思った以上に修繕費用がかかることも少なくありません。たとえば、急にエレベーターが故障した場合や配管の劣化、外壁・屋根の劣化など、複数の箇所で同時に修繕が必要になることもあります。
たとえば、屋根の塗装・防水、外壁の塗装・タイル張り補修、給湯器・エアコンの交換
給排水管の高圧洗浄・取替えなどがあげられます。また、十数年に一度には、大規模修繕を行わなければなりません。費用が多額で長期間にわたる工事であり、建物の主要構造部を修繕します。
主要構造部とは「壁、柱、床、梁、屋根又は階段」です。
マンションの規模によっては、数千万円かかることもあります。
中小企業経営者が不動産投資を行う際の注意点
ここでは、不動産投資の注意点について解説します。
物件の選定
安定的に家賃収入が得られる物件や将来的に値上がりしそうな物件などを選ぶ必要があります。また、立地についても利便性の高い場所を選ばなければなりません。前述したとおり、駅から近く、周辺に商業施設やスーパー、コンビニ、医療機関、市区町村役場などがそろっていることが条件です。
税金対策であれば、法定耐用年数が短い木造や耐用年数を超えた築古物件を選ぶのも一つの方法です。
リスク管理を徹底する
空室リスクや家賃滞納リスク、災害リスクなどに注意しなければなりません。
そのため、住宅設備の故障や建物の劣化、住人同士のトラブルなどは、
迅速に対応する必要があります。
管理を管理会社に委託する際は、実績のある管理会社を選ぶことが大切です。
地震や台風など、自然災害が発生した場合は、建物が倒壊する危険性もあります。
臨海地域は埋め立て地も多く、地盤が軟弱であるケースもめずらしくありません。
購入前に地盤調査を行ったり、火災保険・地震保険に加入しておくとよいでしょう。
まとめ
中小企業の経営者が不動産投資を行う理由としては、会社の安定した経営につながることや
節税対策、経営の柔軟性、社宅としての活用があります。
中小企業経営者が収益不動産に投資するメリットは、安定した収益を得られる、
資金不足の際に売却できる、法人税を圧縮できる、保険代わりになる、少額から始められるなどです。
ただし、不動産投資では空室リスクが伴い、予想していなかった修繕費が発生する可能性もあります。
不動産投資を行う際は、物件の選定やリスク管理が重要です。
経験豊富な不動産会社に相談しながら、慎重に行うことが大切です。