2026年9月、金融庁は「2026事務年度金融行政方針」を公表しました。
その中で注目したいのが、金利上昇など金融環境が変化するなかで、金融システム全体のリスク把握を強化し、不動産向け融資などの動向を注視していく姿勢が示されたことです。
不動産投資家にとって、これは決して他人事ではありません。
日本では長期間にわたり低金利が続いてきました。しかし、その前提が大きく変わりつつあります。
2026年9月には長期金利が約30年ぶりに3%台に達する場面もあり、金利上昇が住宅ローンや企業借入などの利払い負担を増加させることについて、政府も注意深く見ています。
これからの不動産投資では、
「この物件は儲かりそうだ」ではなく、「数字で検証した結果、この条件なら投資できる」
という判断が、これまで以上に重要になってきます。
「表面利回り8%」だけでは判断できない
収益不動産を探していると、
「利回り8%」
「満室稼働中」
「駅徒歩10分」
といった情報に目が向きます。
もちろん利回りは重要です。
しかし、金利上昇局面では表面利回りだけで投資判断することは危険です。
例えば、1億円の一棟マンションで年間家賃収入が800万円なら、表面利回りは8%です。
一見すると悪くない物件に見えます。
ところが実際には、
管理費、固定資産税、火災保険、原状回復費、空室損失、修繕費、借入金返済などがあります。
さらに借入金利が上昇すれば、同じ物件を同じ価格で購入しても手元に残るキャッシュフローは減少します。
したがって、
表面利回り=投資収益
ではありません。
ここを理解することが金利上昇時代の不動産投資の第一歩です。
金利が1%違うと、どれくらい変わるのか
簡単な例を考えてみます。
物件価格1億円、借入9,000万円、融資期間25年、元利均等返済とします。
概算すると、
| 借入金利 | 年間返済額 | 2.5%との差 |
|---|---|---|
| 2.5% | 約484万円 | ― |
| 3.0% | 約512万円 | 約+28万円 |
| 3.5% | 約541万円 | 約+57万円 |
| 4.0% | 約570万円 | 約+86万円 |
※概算値。実際の融資条件等によって異なります。
金利が2.5%から3.5%になるだけで、年間返済額は約57万円増加します。
10年間なら単純計算でも大きな差になります。
しかも実際の不動産経営では、この間に設備交換や大規模修繕、空室なども発生します。
だからこそ、
「現在の金利で返済できるか」だけを計算してはいけない
のです。
購入前に「金利ストレステスト」を行う
私は今後、不動産投資では金利のストレステストが非常に重要になると考えています。
例えば金融機関から、
金利2.5%・期間25年
という融資条件を提示されたとします。
そのまま2.5%だけで収支計算するのではありません。
購入前に、
2.5% → 3.0% → 3.5% → 4.0%
と金利を変えてシミュレーションします。
そして、それぞれについて、
年間返済額はいくらか。
キャッシュフローはいくら残るか。
DSCRはどこまで低下するか。
を確認します。
「金利が1%上がったら赤字になる物件」と「金利が1%上がっても十分キャッシュフローが残る物件」。
同じ表面利回り8%でも、投資としての安全性はまったく違います。
DSCRを見る習慣をつける
特に私が重要だと考えている指標の一つがDSCR(Debt Service Coverage Ratio/元利金返済カバー率)です。
簡単にいうと、
不動産から得られる収益で、借入金の返済をどれくらい余裕を持って賄えるか
を見る数字です。
例えば、
年間NOI(営業純利益)が650万円、年間返済額が500万円なら、
DSCR=650万円÷500万円=1.30
です。
1.0なら、収益と返済額がほぼ同じ。
1.3なら、返済額の1.3倍の収益があるということになります。
したがって購入時点だけでなく、
金利2.5% → DSCR1.35
金利3.0% → DSCR1.28
金利3.5% → DSCR1.20
金利4.0% → DSCR1.14
というように確認しておくことが重要です。
どの金利水準まで耐えられる物件なのかが見えてきます。
金利だけを変えても十分ではない
さらに一歩進めるなら、金利だけではなく複数の悪化要因を組み合わせてシミュレーションします。
例えば、
通常ケース
金利2.5%
入居率95%
家賃下落なし
通常修繕
という前提だけで判断するのではなく、
ストレスケース
金利3.5%
入居率85%
家賃▲5%
修繕費増加
でも計算します。
それでも返済を続けられるか。
ここまで確認すると、その物件が持つ本当の「耐久力」が見えてきます。
「満室想定」より「悪くなったとき」を見る
不動産会社から提示される販売資料は、基本的に物件の現在または想定される収益を示しています。
しかし投資家が考えるべきなのは、
予定通りいった場合にいくら儲かるか
だけではありません。
むしろ、
予定通りいかなかった場合に、どこまで耐えられるか
です。
これは特に借入金を利用する不動産投資では重要です。
レバレッジは収益を大きくする一方で、金利上昇や収入減少時には逆方向にも作用します。
「購入価格」だけでなく「10年間」以上を数字にする
不動産投資は購入した瞬間に終わるものではありません。
例えば10年間保有するなら、
購入 → 賃貸経営 → 借入返済 → 修繕 → 売却
まで一つの投資として考える必要があります。
そのため購入前には、最低でも次の数字を確認したいところです。
- 表面利回り
- NOI(営業純利益)
- NOI利回り
- 年間返済額
- DSCR
- 年間キャッシュフロー
- 空室率
- 修繕費・将来CAPEX
- 借入残高の推移
- 10年後の売却想定価格
- 売却時の残債
- IRR(内部収益率)
ここまで数字にすると、「利回りが高いから買う」という判断からかなり変わってきます。
出口価格も厳しく計算する
もう一つ重要なのが出口戦略です。
購入時の利回りが8%だからといって、10年後にも8%で売れる保証はありません。
建物は10年古くなります。
そのため、
「10年後も現在と同じ価格で売却できる」
という前提だけで投資判断するのは危険です。
例えば、
出口利回り8%
出口利回り8.5%
出口利回り9%
という複数のケースを作ります。
さらに家賃についても、
現状維持・5%下落・10%下落
などを組み合わせます。
すると、10年後の想定売却価格と残債との差額が見えてきます。
ここまで計算して初めて、
「この価格なら買ってもよい」
という購入価格を逆算できるのです。
金利上昇=不動産投資をやめる、ではない
ここは誤解してはいけないところです。
金利が上昇しているから、
「今は不動産を買わない方がいい」
と単純に結論付ける必要はありません。
むしろ重要なのは、
金利が上がっても利益を残せる価格で購入すること
です。
日本銀行が公表する主要行のプライムレートにも上昇がみられ、2026年8月時点では短期プライムレートの最頻値が2.375%となっています。金融環境そのものが以前とは変わっていることは、投資判断の前提として認識しておく必要があります。
これからの不動産投資は「物件選び」から「数値管理」へ
長期間の低金利時代には、物件価格の上昇に助けられた投資も少なくありませんでした。
しかし金利のある世界では、
購入価格、家賃、経費、空室、修繕、金利、返済額、売却価格
という一つひとつの数字が投資結果に大きく影響します。
金融庁が金利上昇や不動産向け融資を含めたリスク把握を重視していることも、こうした環境変化の表れと考えられます。
これから必要なのは、将来を正確に当てることではありません。
金利がどこまで上がるのか。
10年後の家賃はいくらなのか。
10年後の売却価格はいくらなのか。
これらを正確に予測することは誰にもできません。
だからこそ、
「予測する」のではなく「複数のケースを計算しておく」。
これが重要なのだと思います。
不動産投資は「良い物件を探すこと」だけではなく、「悪い状況になったときにも耐えられる物件を数字で選ぶこと」。
金利上昇時代には、この考え方がこれまで以上に重要になってきます。
そして最終的には、
「買える物件」ではなく「数字で買ってよいと判断できる物件を買う」。
これが、これからの不動産投資で大切にしたい基本姿勢ではないでしょうか

